『ロータス』(二〇一九年八月一日 新装版四刷)所収
「TV/CD トランスヴェスタイトスタイト/クロスドレッサー」 238ページ 3行目から9行目
において不適切な表現がありました。 ここにお詫びして修正いたします。

修正前:
「だから、どうしてそんなことにこだわるの……。茉莉花、あなた、特殊な性癖でもあるの?」
 今度は茉莉花が血相を変える番だった。
「同性愛者や、性同一性障害でなければスカートを拒絶できないの?!」
 好みや美意識の問題なのに、何故そんなことを言われるのか理解できなかった。だが、明らかに意欲も適性もない証券会社の一般職の制服はともかく、自ら志望した仕事の制服や、或いは芝居で割り振られた女役の衣装にさえ拒絶反応が出るのはやや頑なすぎると、茉莉花自身も認めていた。

修正後:
「だから、どうしてそんなことにこだわるの……。茉莉花、あなた、特殊な性癖でもあるの?」
 今度は茉莉花が血相を変える番だった。
「あったらどうだっていうの。だいたい、スカートを拒絶するのに、どうしていちいち理由や説明がいるの? とにかく、嫌なものは嫌なんだよ!」
 だが、明らかに意欲も適性もない証券会社の一般職の制服はともかく、自ら志望した仕事の制服や、或いは芝居で割り振られた女役の衣装にさえ拒絶反応が出る自分の頑なさには、茉莉花自身も戸惑っていた。

 修正前の文章にある「性同一性障害」(gender identity disorder)は、二〇一九年に正式に承認された世界保健機関(WHO)の「国際疾病分類」最新版(ICD-11)でこれまでの「精神疾患」から外れ、「性の健康に関連する状態」という分類の中のGender Incongruenceという項目となりました。「ある個人の経験するジェンダーと割り当てられた性の、著しくかつ持続的な不一致」は精神疾患ではなく「性的ありようの一つ」であり、国際的には「性同一性障害」という概念は消滅します。
 ジェンダーとセクシュアリティについての社会的な状況や認識が日々進化していくなかで、最初に書いてから十年以上が経過している「性同一性障害」という語の妥当性を疑問に感じたことが、該当箇所の見直しを行うきっかけでした。日本で「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が成立したのは二〇〇三年です。二〇〇四年の日本が舞台の作品の中で、登場人物が(広義の「トランスジェンダー」という語との差異をきちんと認識しないまま)「性同一性障害」という言葉を使うこと自体はあり得ます。

 しかし、該当箇所の問題は「性同一性障害」という用語そのものにとどまりません。修正前の該当箇所に書かれた台詞の応酬は、同性愛やトランスジェンダーを「特殊な性癖」という表現と紐づけ、それらは「正常ではない」として分断する印象を与えかねません。
 また「スカートをはく/はかない」という行為は、あらゆるジェンダーやセクシュアリティ、性のありようにとらわれることのない個人の自由な選択であるにもかかわらず、修正前の該当箇所では特定の属性に特定の役割を押し付ける物言いがなされており、看過すべきではないと考えます。
 このような不適切な表現を長く放置し、対処が遅れましたこと、ほんとうに申し訳ございません。修正し、深くお詫び申し上げます。

 2021年3月1日 柳川麻衣

参考文献
森山至貴『LGBTを読みとく ──クィア・スタディーズ入門』筑摩書房 2017年
針間克己『性別違和・性別不合へ』緑風出版 2019年

『ロータス』お詫びと修正(PDF)ダウンロード用

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