百合の寝台 2 

  わたししか知らないし、誰も見ないから、どんなデザインのものでも買えて、楽しい。そう呟いたのは、蝶の刺繍が施された黒いブラジャーを試着しながらだっただろうか。
「え、そうなの?」
 脇や肋骨の真上からも肉をかき集めて胸を寄せ、ストラップの長さを調節しながら桃子は言った。いつもパールピンクに塗られた短い爪が桜貝のように光る、細く冷たい指先。初めてブラジャーを買った時から、ゆりのは毎回桃子にチェックをしてもらっていた。運悪く桃子が店にいない時は、商品を見るだけ見て買わずに帰ってしまう。
「じゃあ、ゆりちゃんの下着姿は今のところあたしの独占状態なのね。勿体ないなあ、可愛いのに。これだってとってもお似合いよ」
「え、そうですか? ちょっとエロすぎるかなあと思ってたんだけど」
「そこがいいんじゃない、ゆりちゃんはお色気過剰って感じじゃないから。そういう子が着けるから丁度よく色っぽいのよ」
「……桃子さんに言われると本気にしちゃうじゃないですか」
 最初に買い物をしたとき、ポイントカードを作るための申込書を見て「可愛いお名前ですね」と桃子は言った。
「ありがとうございます、名前は可愛いってよく言われます」
「あたし、これで『トウコ』って読むんですよ」
 桃子は豊かな胸に乗っている名札を示して、
「十中八九『モモコ』でしょ、この字だったら。一回で正しく読んでもらえたこと、ないです。ひとりだけ、褒めてくれた人がいたけど」
 以来、桃子とゆりのは名前で呼び合うようになった。初めのうち桃子は「ゆりのさん」と呼んでいたが、奇遇にもお互いK女子学院の卒業生だと知れてからは「ゆりちゃん」になり、口調もぐっとくだけた。リ・ドゥ・リスでは制服姿の女子高生もちらほら見かけたが、桃子は若い子が相手でも変に馴れ馴れしい接客はせず、きちんとした敬語で対応する。桃子が「ゆりちゃん」と親しく話しかけてくれることに、ゆりのは優越感さえおぼえていた。
「でも新しく買ったりすると、誰かに見せたくならない? ゆりちゃん、体だってきれいなのに。細いし」
 きれいだなんてお世辞でも滅多に言われないので、ゆりのはつい赤くなってしまう。
「……わたし、彼氏がいなくて」
「別に男の子じゃなくていいのよ」
桃子はあっさり言った。
「女の子どうしで温泉旅行とか。行かないの?」
「ああ、行きたいですねえ……でも今、就活中だし」
 そのやりとりがきっかけで、桃子に招ばれて下着を見せ合って遊ぶことになったのだが、その展開は後になってみても、むしろ後になればなるほどゆりのには信じ難い。
「おとめ下着パーティーをするから、ゆりちゃんも来ない?」
 欲しいサイズが店頭になく、取り寄せを頼んでいた品物を入荷したという電話のついでに、桃子は言った。
「パジャマパーティーのランジェリー版っていうか、お気に入り下着のお披露目大会。パーティーって言っても、あたしと、仲良しの友だちひとりだけなの。勿論男じゃないわよ。どう?」
 そう誘われて数日後、勤務を終えた桃子に連れられて蓮実の家へ向かったのだった。K女子学院の同級で、初等科からの付き合いだと道すがら桃子は話した。半蔵門線で渋谷へ出て、JRに一時間程も乗り、駅から徒歩十五分、仕上げに坂を上ったところにその家はあった。マンションの一室だろうという予想に反し、古い木造の一軒家だった。がしゃがしゃ、と桃子が硝子の引き戸を叩くと、内側から錠の回る重い音がしてがらがらと戸が開いた。
 現れたのはすらりと背の高い人だった。あごまでのボブで、前髪を眉の下で切り揃えている。端正だが気難しげな顔をしていた。
「……待ってた」
 低い、掠れたような声で投げ出すように言う。やっぱりお邪魔だったかな、とゆりのは気後れした。桃子はあまり機嫌良さそうに見えない友人の様子に構わず、陽気に初対面の二人を紹介した。
「ごめんごめん、遅くなって。ゆりちゃん、家主の蓮実よ。蓮、お得意様のゆりのちゃん」
「今晩は」
 会釈する蓮実の横顔を真っ直ぐな黒髪がさらさらと隠す。一瞬それに見とれ、ゆりのは慌ててお辞儀をした。
「上がって、御飯の支度してあるから。出来合いだけど」
「ありがとう、これ、デザートに食べよう」
 桃子が差し出したピエール・エルメの紙袋を受け取り、蓮実はふたりを奥へ促した。狭く、古いながらも家の中はきちんと手入れされていた。デパートの地下で調達したという茸とほうれん草のキッシュ、ラタトゥイユなどをご馳走になり、お風呂まで使わせて貰って、二階へ通された。
 六畳と四畳の二間にフローリングを敷いて、ひと続きの洋間のように使っている二階で、天蓋つきのベッドにゆりのは目を奪われた。お伽話に出てきそうな、大人二人がゆったり横たわってなお余裕のありそうな大きなベッド。ここにひとりで寝るのだろうか、とぼんやり眺めているところへ、いきなり桃子がダイブした。ぼふ、と心地よさそうな音がする。
「あー! 最高。ゆりちゃんも早くおいで」
 クッションにしがみついて手招きする桃子のランジェリーはアナスイだ。定番色の紫と黒で、ソングタイプのショーツを堂々と着けていた。買ったばかりの、大きなアップリケを縫いつけたサテンのブラジャーとショーツ姿の自分がいかにも子どもっぽく思え、そのことはゆりのを少し安堵させた。
 ゆりのはこわごわ桃子の隣りに倒れ込んだ。素肌に清潔なシーツの感触が快い。桃子は髪からも体からも甘い香りをさせている。大人の女の人のあの香りは、単に香料の強いシャンプーを使ったり、香水をつけたりしているだけなのだろうか。同じ女なのにゆりのにはその秘密がわからない。
「桃子さん、いい匂いがする」
「今お風呂上がりにボディローション塗ってきたからね。薔薇の香りなの。ゆりちゃんにも塗ってあげる」
 桃子はルルギネスのバッグを引き寄せると、ポーチから小さな壜を取りだした。蓋を開けると、確かに桃子から立ちのぼる香りを濃く甘く煮詰めた香気が漂う。惜しげもなくたっぷり手のひらに垂らし、桃子はゆりのの肩から腕に向かって塗り始めた。
「もう冬に向かってどんどん乾燥してくるからね。しっかり保湿しないと」
「わたし乾燥肌なんで、寒くなってくると痒くて」
「それなのに何もしてないんでしょう。だめよ、ベビーオイルでもいいから塗らないと」
 膝小僧、脛、かかと、背中にも桃子は丹念にローションを擦り込み、「仕上げにデコルテね」と言ってゆりののあごを軽く掴んで顔を仰向かせた。
「ゆりちゃんはまだ若いから気にもならないだろうけど、首で年齢ってわかるのよ、だから顔のシワばっかり気にしてないで、首もちゃんとケアしてあげないと」
 首を両手で押し包まれて、堪えきれずゆりのは「くすぐったい」と身を捩った。桃子も「こら、大人しくして!」と笑いながら有無を言わさず逃げるゆりのを押さえつける。桃子の手はそのまま鎖骨の周辺を丁寧にたどり、自然に下りて、試着室でカップへの収まり具合を整えるときのように乳房に触れた。
「おっぱいが大きくなるマッサージしてあげる」
 湯上がりなのに桃子の指は冷たい。本や映画のベッドシーンではよく、男に乳房を鷲掴みにされた女が身悶えしてよがっているけれど、実際触られただけでそんなに気持ちいいものなのだろうか? ゆりのは常々疑問に思っていたが、いざ他人に揉まれてみてもやはり変な声が出たりはしない。ブラジャー越しだからか、桃子が女だからか。それともわたしが不感症なのか。
「ゆりちゃんのおムネがもっと大きくなりますように」
「えー、もういいですよ、Dで充分です。……そりゃ、桃子さんみたいな谷間はないけど」
 桃子が豊かな体をしていることは服の上からでも一目瞭然で、下着一枚になると特にバストは見事だった。ただ、彼女は胸に比例してお腹や腰回りの肉づきも良いことを発見し、服でカバーしてたんだな、やっぱり桃子さんも三十過ぎてるんだ、と若いゆりのは残酷なことを平然と思った。
「さわる?」
「いいんですか?」
「いいよ、遠慮しないで」
「わあ、何かドキドキする」
 いつのまにか蓮実がお茶の盆を手に入ってきて、立方体の椅子に腰掛けてふたりを眺めていた。リボンやブーケが色鮮やかにプリントされたスリップに、黒のボクサーショーツをはいた蓮実を見て、ゆりのははっとした。手足も胴もすんなりと細く、どこにも贅肉のついていない体は、三十過ぎとは思えない。化粧を落とした素顔は桃子よりずっと若く見えた。二十代と言っても通るだろう。
「桃子のはアナスイ? 可愛いね」
「うん、新作。蓮こそ、それチュニックでしょう。似合ってるわよ、羨ましい」
 蓮実に気付かず桃子とじゃれていたことがきまり悪く、ゆりのは口の中だけで頂きます、と言ってサイドテーブルに置かれた紅茶に手を伸ばした。茶器は三つともウエッジウッドで、柄がバラバラだった。迷っていると、桃子がそれが自分専用と言わんばかりに優美な鳥の絵のクタニクレーンを選んだ。ゆりのは持ち手の形が愛らしいビアンカにした。蓮実にはサムライが残った。
「この家には組の食器ってないのよね」
 桃子が呟くと、「必要ないもの」と蓮実はあっさり言った。
「……蓮実さんは、ほんとにおひとりなんですか? その、ここに一人暮らしというだけじゃなくて、ええと……」
「恋人がいるかという意味なら、いない」
 ゆりのがおずおず訊ねると、蓮実はさらりとそう答え、微笑して続けた。
「ひとりだよ。私はずっとひとり」
 それを聞いた桃子の表情に影が差した。しかし彼女はすぐに華やいだ声で、
「何よ、あたしだって独り者よ。今日はシングル女子限定なんだから」
「わたし、もうすぐ二十二になるんですけど、……男の子と付き合ったことがないんです」
 今まで誰にも言わなかった、言えなかった秘密を、零れるようにゆりのは呟いていた。それを口に出してしまうと、言葉は次から次へと溢れた。
「生まれてから一度も。何も経験していないんです。ファーストキスもまだだし、手をつないだことさえないの。……大学の、周りの女の子たちにはみんな彼氏がいるのに、高校まで何もなかった友だちだって、大学生になった途端に恋人が出来たのに。わたしだけ、ずっと何もないままで……、彼氏欲しいなーって言うと、すぐ出来るよーってみんな簡単に言ってくれるけど、みんなはわたしがこの歳で恋愛経験ゼロだなんて思ってないから、……わたしにはこのまま一生恋が出来ない気がする」
 感情が昂ってきて、ゆりのは膝に抱えていたクッションに思いきり顔を埋めた。頭に、そっと手が置かれた。桃子の声が静かに訊いた。
「ゆりちゃん、好きな人はいないの」
「……いないです」
 突っ伏したままゆりのは答えた。
「好きな人もいないから、だから、わたしはおかしいんじゃないか、何か欠落してる人間なんじゃないかって……」
「好きでもない人と付き合ったって仕方がないとあたしは思うよ。それにね、キスなんてそんなに大したことじゃないのよ」
「え?」
 思わず顔をあげたゆりのの頬を両手で挟み、桃子がぐっと顔を近づけた。甘い香りが強くなる。まっすぐ瞳を覗き込まれて、反射的にゆりのは目を閉じた。ウエーヴのかかった髪が首筋をくすぐる。唇に柔らかいものが触れ、それが桃子の唇だと解るのに時間がかかった。素早く差し入れられたあたたかい舌が出ていくまで、ゆりのはまぶたの薄闇の中で茫然としていた。
 恐る恐る目を開ける。電灯が眩しかった。桃子がゆりのの肩を抱きかかえ、あやすように囁いた。
「ね? 簡単だったでしょう。一生経験出来なくなんて、なかったでしょう」
 ゆりのは何も言えずに、ただ頷いた。
 ゆりのを真ん中にした川の字でベッドに寝そべり、いつしか三人一緒に眠りに落ちてパーティーはお開きになった。この夜の全部が夢なのではないかと思いながら、ゆりのは眠りに引きこまれた。

 後から思えば、リ・ドゥ・リスに通い詰めていたあの一時は何もかもが夢のようなのだった。起きて、出社して働いて、たまに同僚と食事をして、帰ってきて、眠る。その繰り返しの中にあっては、まるで生活感のない蓮実の家、天蓋つきのベッドで下着姿で戯れていたことなど物語のようだ。
 その全てが夢ではないという証拠を見つけて、ゆりのの手が止まる。胸元と裾に幅広のレースがあしらわれ、天使に貴婦人、薔薇のプリントが鮮やかな一枚のスリップ。タグにはCOCOのマーク。チュニック社のエアル。
 特別に仕舞ってあったそのスリップを、ゆりのはそっとかぶった。そういえば最近着ていない。ひと頃は毎日のように着ていたのに、と思いながら姿見の前に立つ。初めて着たときと同じ感慨がゆりのを襲った。自分で自分を抱きしめて蹲る。蓮実さん。二度と会うことのない人の名前を声に出さずに呼んだ。胸が痛んだ。

「鴨居羊子を知ってる?」
「カモイヨーコ?」
「そう、チュニックという会社を起こした人。まだ下着に対する考え方がガチガチに保守的だった時代に、色んな楽しい下着を作った革新的な女の人」
 その日、ゆりのは初めてひとりで蓮実の家を訪ねた。何とか内定を貰い、卒業論文も提出し終えてほっとして誕生日を迎えると、十二月の半ばだった。桃子はクリスマス商戦に追われて忙しく、残業が終わり次第駆けつけることになっていた。
 ゆりのは緊張していた。三人でいると専らお喋りの中心は桃子で、蓮実は聞き役に回ることが多いので、気まずくなったらどうしようと不安になる一方、桃子を介さず蓮実と向き合えるのが嬉しくもあった。
 蓮実はスリップの上に薄手のカーディガンを羽織っていた。賑やかなサーカスの絵柄は、モチーフが違ってもいつもと同じブランドのものだとはっきりわかる。くっきり鎖骨が浮いた滑らかな蓮実の胸元は真っ平で、スリップはぶかぶかなのに、細く薄い体によく似合っていた。静脈が薄青く透けている。ボーイレングスのショーツからまっすぐ伸びる脚は少年のようだ。きれいな人だ、とゆりのは思う。美人だとか可愛いだとかではない、硬質な、無機物の持つしんとした清潔感が蓮実にはあった。
 いつもは食事を終えるとすぐに二階へ上がるのだが、その夜はそのまま食卓でお茶を飲んでいた。
「……私は、暇潰しと言ったら本を読むタチで、君ぐらいの頃はまだ、服を買うお金があったら本を買っていたよ。洋服屋の店員って寄ってきて色々言うでしょう、あれが怖くて店に入れなかった。まして下着なんてもっとどうにも出来なくてね。リスみたいな気軽な感じのお店も知らなくて、高校の頃は学校帰りに西武の下着売り場を横目で眺めて、別世界だなあって思ってた」
 ゆりのはびっくりして蓮実を見た。下着選びを楽しんでいる今でも、昨日のことのように思い出せる。エスカレーターを乗り継ぐときに目に入る、総レースのランジェリーで一杯の、心もち照明の落とされた一角。短いスカートをはいて群れている他校の制服の少女たち。同じ光景を、蓮実も見ていたのだろうか。
「下着のことは考えたくなくて、黒で通していた。洋服を買うことが楽しくなってからも、下着だけは黒の無地。ずっとそうだったんだけど、あるとき『わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい』という本をタイトルに惹かれて読んだら、鴨居羊子という人の生き方があまりにもかっこよくてね。この人の作った下着なら着てみたい、と思い詰めて、今でもチュニック社の製品が買えるとわかったら、売っている店を調べてすぐ買いに行った。それが三十になるかならないかの頃かな。
 ちょうど同じ頃桃子から連絡があって、また離婚して働きだした、表参道の下着のお店に勤めてるって言うから、私も今チュニックの下着に夢中だという話をしたの。そうこうするうちにお互い見せる相手もいないんだったら勝負下着で旅行でもしようか、なんて言い出して、……今に至る」
 近より難く、積極的に喋らない蓮実が自分の内面を開示したこと、しかもそこに共通点があったことに、ゆりのはどきどきしていた。喉が渇いて、ゆりの用になりつつあるビアンカを持ち上げ、紅茶を飲み干す。
 ふいに蓮実はテーブルの下からきれいにラッピングされた紙袋を取りだした。
「本当は桃子が来てから一緒に渡したかったんだけど、もういいや。ゆりちゃん、お誕生日と就職内定おめでとう」
「えっ! ……いいんですか、そんな」
「いいよ、じゃあついでにメリークリスマス」
 開けちゃって、と促されて包みを開くと、ハトロン紙にくるまれていたのはスリップだった。蓮実が愛用している物と同じブランドと一目でわかる鮮やかな色、優美な図柄。
「チュニック社の定番、エアルっていう人気のあるシリーズなの。桃子はリスの新作を贈りたかったらしいんだけど、私の我が儘を通してもらった。きっと気に入ってもらえると思ったし、似合うのもわかってたから」
「ありがとうございます……」
「上で試着してご覧」
 言われるままにゆりのはひとり、二階に上がった。ブラジャーもせず直に着たので、蓮実と同じように胸元のレースと体の間にやけに隙間がある。全体に少しぶかぶかしていて、筋肉のついていない手足がいっそう細く見えた。チビでみそっかすのくせに小生意気なコールガールみたいだ、と思った。立方体の椅子を姿見の前に引っ張ってきて腰掛け、脚を組んでみる。外国の煙草でも持ちたい気分だ。
 すっかりなりきっているうちに、何故か涙が出てきた。チュニックのスリップはゆりのをオブジェにしてしまうのではなく、あくまでもゆりのが主体、ゆりのが主役の可愛らしさ、色っぽさを引き出していた。誰かに媚びるのではない、わたし自身が望む、わたしのためのエロス。
 鴨居羊子という人はすごい人だ。蓮実がそう言う理由がわかった。既にこの世にいない、この日初めて名前を聞いたその女性の精神が、一枚のスリップに宿っている。大丈夫、あなたはとってもキュートでセクシーで、だけどあなたに備わっているそれは男どものためのものなんかじゃない、あなたのためのものなんだよと、そんな声が聞こえてくるようでさえあったのだ。
 どれほど時間が経ったのか、終電近くに桃子が到着して、引き戸が鳴る音で我に返って下りてゆくまで、蓮実はゆりのを放っておいてくれた。疲れているせいか桃子はハイで、ワインをあけて大いにはしゃいだ。そのあとはいつもどおり、朝まで騒いで三人で眠った。